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「マーケティング」と「リーダーシップ論」から考えるパワハラ対策

2020/01/21

コラム

 パワーハラスメントの防止には、相談体制の整備、ルールなどの文書化、役員・従業員への教育が必要だ。しかし従業員等に対し、裁判例を踏まえた違法性を認識させるだけでは、必ずしも予防研修の効果が高いとは言えず、相談活動が活性化することもないだろう。その解決策の一端として、本稿では、相談窓口のマーケティング活動と、リーダーシップ論を踏まえた管理職教育について述べることとする。

 

「顧客」目線の相談窓口

 相談窓口を設置したのに相談がない、それなのにパワハラの噂を耳にする、という話を聞くことがある。体制を整備しただけでは奏功せず、ハラスメントが発生するのである。形式を整えても実質が伴っていないと企業は免責されない、というのが裁判例の傾向である。この点を見極めないと、人事労務担当者は、なぜ利用が増えないのかと自問することになるだろう。

 従業員を組織の内部にいる顧客と捉え、従業員のニーズを踏まえて、組織内部でマーケティング活動をすることを、インターナルマーケティングと言うが、相談窓口を、従業員という「顧客」に対するサービスと捉えると、答えの一端が見えてくる。

 マーケティングにおいては、まずリサーチから始めるが、ハラスメント対策でいえば、事前アンケートがデータの収集方法として考えられる。ハラスメントの実態を答えさせるだけでなく、現在の相談先や相談窓口への希望なども質問項目に入れ、どのような動線で相談に至るかを分析、予測する。

 顧客目線でサービスの内容を検討すると、アイデアが創出される。他企業では、電話番号は専用の携帯電話とする、メールでも相談できるようにする、また、相談窓口はメンタルヘルスとハラスメントを別にし、ハラスメントに関しては男性と女性で窓口をそれぞれ設ける、さらには、相談担当者は相談者と同性にする、などの取組みをしており、いろいろと参考になる。

 新製品を市場に導入する時期は、宣伝広告を繰り返すのが重要だが、ハラスメントの相談窓口も、従業員が情報を持ち合わせていなければ、アクセスしてこない。例えば、イントラネットの見やすい位置にワンクリックで窓口の情報にたどり着けるようにする、リーフレットを作成し、相談に関する流れ・連絡先、相談における秘密厳守などを見開き1枚でまとめる、相談担当者の氏名や顔写真を掲示する、などの工夫をしている企業もある。こうした工夫をすることで従業員が相談しやすくなる。

 このようにハラスメントの相談を「サービス」として捉え、マーケティングの手法を使って、利用件数や利用率が上がるよう、企業の実情に合わせて努力することをお勧めしたい。

 

タイプ別の管理職教育

 管理職に対し、パワーハラスメント防止研修を実施している企業は多いが、パワハラは、それが業務上の指導かどうかの判定が難しいので、管理職が線引きに苦慮し、萎縮していないだろうか。

 他方、パワハラ傾向にある管理職に限って、違法となる言動は分かっている、人格を否定する発言をしなければいいんだろう、と開き直り、研修を軽んじていないだろうか。

 前者のタイプについては、「パワーハラスメント」という文言からパワーを行使してはならないと誤解しているのかも知れないが、本来、管理職が部下に対し影響力を及ぼすには、パワーと優位性が必要だ。このパワーの源泉は、上司から部下に対して仕事を労い、褒めること、もしくは逆に、部下が上司に対して尊敬や憧れの念を抱くことにある。そして、職場集団の目標を達成するため、上司と部下が同じ方向性を共有することで、管理職のリーダーシップが発揮されることとなる。

 職場のサポートは従業員のストレッサーを緩衝する要因となるので、管理職が適切なフォローアップをすることにより、部下のメンタルヘルスの状況は良好となる。だからといって、甘く指導することがサポートではない。部下に対し、難しい仕事を指示する、高い目標を設定させるなど、時には厳しい指導が必要だが、一方で、それに見合った上司の配慮も重要となる。管理職には、必要な道筋を示して部下の目標達成を助ける、という補完的な役割があるのである。

 萎縮している管理職は、部下との人間関係を重視しているのであり、部下の意見を反映すること、補完に徹することは、リーダー像として望ましいことを理解させるとよい。

 次に、後者のタイプについてだが、職場では、違法とまでは認められないものの、管理職が不当な言動をしていることがむしろ多いと思われる。上司が必要な道筋を示さないまま叱咤しても、部下は上司の指示が理解できずにミスをし、これが上司のイライラの原因となり、ついにはパワハラに発展する。

 パワハラはサポート欠如の最たる形態であるが、このタイプの管理職の指導方法が、部下のストレッサーを発生・増幅する要因となる。これでは上司と部下が同じ方向性を共有することはできない。管理職自身の指示の出し方や指導方法を省みないと、リーダーシップは発揮されず、職場の労働生産性を低下させるということを、管理職に理解させるとよいだろう。

 この2つのタイプを踏まえ、防止研修を活用して、管理職それぞれがマネジメントの在り方を探求することをお勧めしたい。

 

執筆者プロフィール

弁護士 佐久間 大輔先生

労災・過労死事件を中心に、労働事件、一般民事事件を扱う。近年は、メンタルヘルス対策やハラスメント防止対策などの予防にも注力しており、社会保険労務士会の支部や自主研究会で講演の依頼を受けている。日本労働法学会・日本産業ストレス学会所属。著作は、「過労死時代に求められる信頼構築型の企業経営と健康な働き方」(労働開発研究会、2014年)、「長時間労働対策の実務 いま取り組むべき働き方改革へのアプローチ」(共著、労務行政、2017年)など多数。

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