テレワーク社員のメンタルヘルス対策
2020/09/28
元々テレワークは一部の大企業やIT企業にしか浸透していませんでしたが、今回の新型コロナウイルス感染症により、テレワークという勤務体系が当たり前のものになりつつあります。しかしそこには課題も多くあります。
実際にテレワークで働くにあたり、就労環境を整えることが難しかったり、孤独を感じうつになったりする人も増えています。今後、社労士が顧問先等のサポートをしていく上で、テレワーク社員のメンタルヘルス対策について知っておくことが求められます。
1.なぜテレワークにストレスを感じるか
独立行政法人労働政策研究・研修機構による「情報通信機器を利用した多様な働き方の実態に関する調査」によると労働者から見たテレワークの問題・課題として
- 仕事と仕事以外の切り分けが難しい(38.3%)
- 長時間労働になりやすい(21.1%)
- 仕事の評価が難しい(16.9%)
- 上司等とコミュニケーションが難しい(11.4%)
等が挙げられています。
このような課題に対して、どう対処すればよいのでしょうか。
2.ストレスを緩和するための施策
テレワークは従来にない「新しい働き方」です。そのため規程を整備することが必要です。
就業形態の根本的な変更があれば就業規則を改訂する必要がありますが、そうでなければ就業規則の附則として「在宅勤務規程」を追加することで対応できます。
<規程例>
- テレワーク勤務の定義、対象者
- サテライトオフィス勤務の利用申請
- テレワーク勤務時の服務規律、労働時間、休憩、所定休日、時間外労働、出退勤管理、賃金・費用負担
企業には労働安全衛生法等に基づき、過重労働対策やメンタルヘルス対策を含む健康確保のための措置を講じる必要があります。
テレワークは時間外労働の削減につながるというメリットが期待される一方、働く姿が見えない中成果が求められるため、長時間労働を招くおそれがあります。長時間労働を防ぐ手法として以下のことを取り入れてみましょう。
①メール送付の抑制
時間外、休日または深夜に業務指示等がメールで送付されることの無いようメール自粛を呼びかけましょう。
②システムへのアクセス制限
社内システムに深夜・休日はアクセスできないように設定しましょう。
③長時間労働等を行う労働者への注意喚起
長時間労働を行っている労働者に直接注意喚起を促すことも必要です。そのためには労働時間を適切に管理できるシステム導入が必要です。
また本来所属するチームから離れて仕事をすることは、孤独を感じるため「いつもの仕事を」「いつものコミュニケーションをしながら」仕事ができる環境を用意することは有効です。
自宅でも職場と同様の緊張感やモチベーションを維持できる環境を作るため
- 上司も含め、複数の人に見られている
- 周りの人が仕事をしている様子が見える
- 時々話しかけられる
このような環境を用意するために、動画でお互いの顔が見られるようにしたり、音声チャットでいつでも声をかけられるようにしたりするとよいでしょう。また、社員本人にセルフケアの方法を伝えることも効果的です。
3.テレワークの制度を適切に導入するための注意点
(1)労使双方の共通認識
テレワーク実施において最も重要なことは「目的を明確にする」ことです。
「目的」の具体例としては
- 女性社員が長く働き続けることができる会社にする
- 介護等で職場に出社することが難しくても仕事を継続できる環境をつくる
- 自然災害やパンデミック等が起きても、事業を継続できる会社にする
- コストを削減し、経営効率のいい会社にする
等、経営者をはじめ各部門の担当者で共有して目的を明確にすることが必要です。
(2)情報共有
実際にテレワークを実施してみるとチーム間の情報共有不足を感じる人も多いでしょう。隣にいればすぐ訊けることが、テレワークでは躊躇してしまいます。これまでのやり方にこだわることなく、一つずつ仕事道具をクラウド化していくことが必要です。
(3)研修・業績評価等の取り扱い
研修のポイントとしては下記の3点です。
①テレワークの目的・必要性を理解する
まずは職場全体で、テレワークの目的や必要性、効果等を共有することが必要です。
【研修項目】
- テレワークとは
- 自社としてのテレワークの位置付け、目的・必要性と得られる効果
- 導入計画、導入の流れ
②テレワーク時の体制について理解する
労務管理や賃金制度、業績評価について明確でないことは不信感をもたらします。
【研修項目】
- 社内規程及び手続き
- テレワーク環境での勤怠管理、業務管理
- テレワークの際の従業員の指導や育成の方法
- 人事評価
③テレワーク時のツールを操作できるようになる
ICTツールに関しては社員間の知識差が大きいものです。テレワーク時に使用するツールの操作方法等を実体験する機会を設けるとよいでしょう。
【研修項目】
- テレワークに係るシステム及びツールの使用・操作方法
- 情報セキュリティ
- テレワーク時の連絡方法(トラブル発生時の問い合わせ先を含む)
優秀な人材が、どのような状況になってもその能力を発揮し、働き続けられるようにすることで、企業側はコスト削減、生産性向上、危機管理といった様々な問題を解決できます。社労士がその必要性を理解し、持続可能なテレワーク制度導入ができるよう企業のサポートを続けていきたいものです。
執筆者:田中 亜矢子先生
採用定着コンサルティングOFFICE サン&ムーン
1981年10月生まれ。二児の母。
2004年 愛知教育大学教育学部卒業後、信用金庫へ入庫。
9年間 営業店で投資信託や保険商品等のセースルを経験後、人事部へ。
採用、人材育成を通じ5年間で約5000名の学生と接する。2017年 社員教育を専門とする社会保険労務士として独立。 同年、キャリアコンサルタント資格を取得し、学生および転職者の面談等も実施。
現在は、企業、学校、官公庁にて部下育成、コミュニケーション、ハラスメント等、年間100回以上研修を実施。受講者からは「人を育てる必要性を深く理解できた」との声も多く、リピートの依頼も多い。中小企業おいては、各企業に合わせた中長期的な人財育成計画を策定し、研修や面談を通じて社員の定着率を高める仕組み作りをしている。
社労士、キャリアコンサルタントとして人事労務のプロであると共に、陰陽五行論をベースとした人間学や運勢学に精通。
子育てと仕事を両立しながらも、休日は神社めぐりや温泉めぐりなど家族でアクティブに過ごす。
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